網膜剥離

網膜剥離のようす

網膜剥離は眼の中でフィルムの役目をしている網膜に穴が開き、網膜が剥がれてくる病気で、そのままにしておくと、治療を行っても十分な視力回復は見込めなくなります。

網膜剥離について

網膜剥離とは

目の断面:網膜の位置

網膜とは、眼底と呼ばれる眼の奥一面に広がっていて目に入った光を感知する、厚い部分でも0.3~0.5mm程度の薄い膜状の組織です。
網膜は神経網膜という光を感じとる層と、一番外側の網膜色素上皮と呼ばれる層で成り立っています。

網膜剥離とは神経網膜が網膜色素上皮から分離した状態のことを言います。

網膜剥離は大きく分けて裂孔原性網膜剥離と非裂孔原性網膜剥離の2つに分類されます。

裂孔原性(れっこうげんせい)網膜剥離

裂孔原性網膜剥離とは、網膜の一部に裂孔と呼ばれる裂け目ができて、そこから網膜の裏側に水分が流れ込んで剥がれてしまいます。

一般に網膜剥離といわれるのはほとんどがこのタイプで、日本では毎年約1万人が発症していると言われています。
発症のピークは10~20歳代と50歳代です。

裂孔原性網膜剥離の原因

10~20歳代の網膜剥離は近視が強い人に起こることがあります。

近視が強いと、眼軸(眼球の長さ)が長くなります。すると網膜に薄くなる部位ができることがあります。このような薄い網膜が萎縮して、円孔と呼ばれる丸い裂孔ができることがあります。
その円孔から網膜に接している硝子体という無色透明のゼリー状の液体成分が神経網膜と網膜色素上皮の間に入り込んでしまい、網膜剥離になるのです。

50歳代の網膜剥離ができる主な原因は硝子体の牽引(引っ張る力)によるものです。

硝子体は加齢とともに少しずつ乳化しはじめ、ゼリー状の液体の中に空洞ができて容積が減っていきます。
硝子体の乳化が進むと、硝子体と眼球の後方の網膜が剥がれてすき間ができていきます。これを後部硝子体剥離といいます。

後部硝子体剥離は加齢による生理的な変化なので後部硝子体剥離自体に問題はありません。
しかし後部硝子体剥離が起こる時に、硝子体と網膜が病的に強く癒着している場合や網膜が弱くなっている場合には、収縮する硝子体に引っ張られて網膜が引き裂かれ、亀裂や穴といった裂孔ができることがあります。そしてその裂孔から乳化した硝子体が神経網膜と網膜色素上皮の間に入り込み網膜剥離が生じます。

また眼球の打撲などで急激に眼球が変形して、網膜裂孔が生じることもあります。

裂孔原性網膜剥離の状態

裂孔原性網膜剥離の自覚症状

初期症状では、黒い点やゴミのものが見える飛蚊症や、ピカピカと光が見える光視症などがあります。
網膜剥離が始まると、視野欠損(網膜剥離が網膜の上のほうに起こると下方の視野が欠け、下方の網膜が剥離すると上方の視野が欠損します。)が起こり、剥離部分が黄斑部と呼ばれる物を見るのに一番大切な部分に及ぶと、視力が低下します。

裂孔原性網膜剥離の治療

網膜に穴が開いた状態(網膜裂孔・円孔)だけで網膜が剥がれていない状態であれば、網膜光凝固術(レーザー)を行います。穴の周りにレーザーを行い、網膜剥離へと進行するのを抑えます。

すでに網膜剥離になってしまった場合には手術が必要となります。
手術は硝子体手術と強膜内陥術(強膜バックリング術)があり、手術方式の選択は症例によって異なります。

硝子体手術

網膜を牽引している硝子体を切除して、眼内を空気や、シリコーンオイル、ガスに置き換えます。
またこの時に網膜下液も同時に取り除いたり、網膜裂孔に対してレーザーを行ったりすることもあります。
空気やシリコーンオイルやガスで眼内を置き換えることにより、剥離した神経網膜を外側の網膜色素上皮に接着させ、元の位置に戻す方法です。

空気・シリコーンオイル・ガスは水より軽いため、しっかりと網膜を押さえつける状態にするために、手術後うつむきの姿勢をとる場合があります。

非裂孔原性網膜剥離(続発性網膜剥離)

非裂孔原性網膜剥離は何らかの病気に続発しておこるもので、滲出性網膜剥離と牽引性網膜剥離の二つに分類されます。

1. 滲出性(しんしゅつせい)網膜剥離

滲出性網膜剥離の自覚症状

滲出性網膜剥離は黄斑部と呼ばれる物をみる上で一番大切な所に起こる場合が多いため、中心の視力の低下や、物が歪んで見えるような症状が出ます。

滲出性網膜剥離の治療

滲出性網膜剥離では、原疾患を治療し滲出を減少させるため、治療方法は様々です。

2. 牽引性(けんいんせい)網膜剥離

網膜の表面または硝子体に付着した増殖性組織が網膜を引っぱることにより、網膜剥離を生じます。

牽引性網膜剥離の主な原因

糖尿病網膜症では、新生血管と呼ばれる異常な血管が網膜から硝子体に生えてきます。
新生血管はとても弱い血管なので簡単に切れてしまい出血を起こします。出血によって網膜と硝子体の間に増殖膜と呼ばれる膜が形成され、網膜と硝子体が強く癒着されます。
その膜が縮むことにより網膜を引っ張り、裂孔がなくても網膜剥離が生じます。

牽引性網膜剥離の状態

牽引性網膜剥離の自覚症状

硝子体に出血が起こると飛蚊症が出ます。
出血した量が多いと急に視力が低下し、見えづらくなります。また黄斑部に血液の成分がにじみ出て、むくんでしまった場合は歪みの症状がでます。また剥離が起こると、視力低下や視野欠損が起こります。

牽引性網膜剥離の治療

剥離が起きたほとんどの症例では硝子体手術を行います。
硝子体出血を取り除いたり、牽引力の軽減あるいは牽引力をなくすために、増殖膜を取り除いて網膜剥離を元に戻したりします。しかし網膜そのものが固くなり縮み上がってしまうので、牽引力を軽減させたり、なくしたりするのが難しい場合も多く、難治な網膜剥離といわれています。